読み、書き、話す、聞くのうち得意な分野から英語の勉強再開する
「グローバルビジネスの輪に入りたい。でも、英語苦手だから不可能。」と逡巡する人はたくさんいるのではないでしょうか?
でも、それは、裏返すと、飲むと突然、英語がペラペラになるような特効薬があるのではないか?と、どこかで期待しているからではないででしょうか。当たり前な話ですが、そんな薬はどこにもありません。
それよりも、たとえば十年かけて、英語でスムーズにコミュニケーションがとれるようになることを目標にするのはどうでしょう。日本語だって、そのようにして習得していきたはずです。だんだんと改善して、レベルを上げていく、まるで彫刻を掘るように、学んでいく、という発想に立った方が挫折しないのではないでしょうか。
よく言われることですが、福利の力を活かす長期投資の話と一緒ですね。
では、最初に何から始めるか?
帰国子女でもないのに、英語がすばらしく流暢で外資系企業で活躍する知り合いがいたので、アドバイスを求めると以下のような返事をもらいました。
「人は、誰でも、読む、書く、聞く、話す、のいずれかで得意な分野がある。得意な分野から始めると、英語の勉強はスムーズに離陸していく。」
そのアドバイスを素直に受け止め、読書好きの僕は、英語の小説を読むことから始めようと思いました。
選んだ本は、How Starbucks Saved My Lifeという小説です。この物語は、アメリカの有名な広告会社の幹部だった主人公が、中高年になって、リストラに見舞われ、仕方なく、独立し、仕事を得ようと努力するものの、年々、受注数は減っていき、もがき苦しんでいる時に、ひょんなことからスターバックスのスタッフになってしまい、それから人生が変わっていくというあらすじです。
僕は、この主人公の所属している広告業界に所属していて、また、自分も中高年の年齢に入っていたので、この世代のサラリーマンの特有の悲哀を描く前半は、深く共感できました。なので、この本を徹底的に読み込んで、できれば暗記してしまおうと決めました。
とは、言っても、一人でやっても確実に挫折するのがわかっていたので、伴走してくれる教師を探すことにしました。
知り合いから、大手英語学校で教師していたオーストラリア人の男性を紹介してもらい、バイトで個人教授をしてくれるようお願いしました。週に一回。僕は予習として10ページほどこの小説を丁寧に読み込み、分からない部分を徹底的に質問して、解説してもらいました。翻訳できない部分のみならず、単語や文章の意味がピンとこない、とか、主人公の振る舞いに違和感があるとか、アメリカビジネスやアメリカ文化の背景がわからないから理解できていなさそうだと思う部分は、その背後にある社会的な文脈も解説してもらうようにしました。そのオーストラリア人の先生は大学院卒で大変なインテリだったので、全ての質問に対して、非常にアカデミックな解答をしれくれました。
そして、授業後は、時間をかけて復習し、何度も音読しました。ついでにその書籍のオーディオブックも買って、同じ部分を何度も聞き続けました。
こういった勉強を2年ほど続けました。それによって、広告業界で使用されるフレーズや単語が増え、仕事上でも存分に活用することができました。
例えば、その先生は一つの単語を以下のように解説します。
embraceという単語。仕事で、よくembrace change(変化を受け入れる)という表現で、出てきます。この単語が、How Starbucks changed my lifeでも出てきました。
先生は、この単語の意味をこう表現しました。
”1961年、ソ連の、人類初の有人宇宙船ボストーク1号に乗って帰還したガガーリン少佐をフルシチョフ書記長が抱きしめた。ハグした。これが、まさにembraceだ。”
そんなふうにして、解説してもらうと、その単語を深く理解することができ、記憶できます。そして、自分にとって、大学受験時に単純記憶した単語とは違って、馴染みのある単語となり、自信を持って活用できるようになるのです。
僕はそんな風にして、焦らず、時間をかけて英語の習得に励んできました。英語のレベルが上がっていくと、自然と、より複雑で高度な仕事が舞い込むようになるので、さらに英語に磨きをかけることに意欲が湧いてくるようになりました。
そして、その後は、他の分野、書く、話す、聞く分野にも勉強を広げていきました。この3分野の習得は、当然のことながら、読む勉強とは違い、悪戦苦闘の連続で、今もそれは続いてます。それでも、自分の得意な読む分野で基礎を作ったので、英語の勉強を飽きずに、今も続けられるのだと思います。
2010年、45歳の歳に、この方法で、英語の勉強を再開させて、それから、13年経ちました。今、どれくらいのレベルになったか?というと、例えば、イギリス人が立ち上げた、ロンドンがベースのスタートアップと日本市場参入の活動を、創業者と、日々細かく連絡取り合いながら、サポートしています。国際機関に長く勤務して独立した社会起業家とも日々仕事をしています。長い年月を経て、そういう人達と事業や国際問題について会話できるようになりました。ずいぶんと時間がかかりましたけれど、ある種の達成感があります。
「Chat GPTやDeep Lがあるので英語勉強する必要ない。」という悪魔の囁きは無視して、ぜひ、得意分野から英語の勉強の山をゆっくりと登り始めてください。